課金アイテム問題についての解説と見解

サイゲームス「グランブルーファンタジー」で天井&詫び石配布の件(追記あり)

この頃SNSでもトレンドに入り、新聞などで大きく取り上げられてご存知の方も多いかと思いますが、サイゲームスさんの「グランブルーファンタジー」の課金アイテムのあり方について問題になっています。

この問題はグランブルーファンタジーに限った問題ではなく、あらゆるアイテム課金型ゲームのあり方も同様に議論されるべき問題であり、それは当然DeckDeDungeon2も(DeckDeFantasyも)同様であり、たとえ個人運営であっても事業として対価を得て運営している以上は問われない道理はないと考えます。

元々が、あまりにも確率が低すぎて数十万円つぎ込まれたり、低すぎる確率が大して変わっていないのに上昇したと謳うのが優良誤認であるのではという問題から、アイテム課金の欺瞞性が議論の的でしたが、本日公表されたグランブルーファンタジーの今後の方針の詳細によって、「そもそも景品表示法違反で完全にアウト」という問題に発展してしまいました。

「グランブルーファンタジー」の今後の方針について

景品規制の概要

※これらのリンクは、記事冒頭の山本一郎氏のブログに掲載されたものと同一のもので、そちらで全て目を通された方は開く必要はありません。

今回は、この問題について、Nussygameがどのような考え方で課金アイテムを提供しているか、という観点から解説させていただきます。

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ゲームのアイテム課金のあるべき形は?

これについては、私は既に昨日の本件の問題が挙がった際に、Twitter上で言及致しました。

https://twitter.com/ohNussy/status/699575443465203712

アイテム課金がどうあるべきかの基準がどこにあるかで考えたら、「払った人は払った分の十分な対価を得たと思えるものを提供する」事に尽きるんじゃないかなと考えている。買い物なわけだし。実質ガチャでも海外でHSが問題ないのは間違いなくダストがあるからだと思うし。Mtgは現物だし。

トレーディングカードゲームが問題ではない、とされる識見は、同様に山本一郎氏の記事にて言及がありますので、紹介させていただきます。

ガチャ規制議論とTCG(トレーディングカードゲーム)について

TCGとコンシューマーアクトについては昔からアメリカや欧州(とりわけドイツ)で議論になっていますが、現状で言えば適法である、セーフだという見解になっており、日本でもあまり問題視されません。

・ 完全な購買・所有物であり、二次市場が存在していてフェアバリューがはっきりしている。
・ エディションごとに正規の箱買いを一定数行えば、そのエディションで発行されるカードはすべて手に入る。つまり、エディションでの上限金額がはっきりしている。

この「上限金額がはっきりしている」というのが、アイテム課金の欺瞞性を解消出来る、現状考えうる唯一の手段であるように思います。そして、今回グランブルーファンタジーが取った施策もその考え方に準じようとしたものであったと考えられます。問題は、「総付景品とした場合の景品最高額」が、「取引価額の2/10」を余裕で突破してしまっているだろうという点です。

詳細は、冒頭記事で解説されていますし、専門家ではないので、こちらでは深く突っ込みませんが、これはもはやグレーではなくブラックな事案です。これに対して取りうる方法は、フランクに言えば「問題のキャラの排出確率を、約1.67%以上にする」事でしか解決出来ません。(この確率まで上げる事で、キャラの景品類価額が2/10に収まります)

こうした事から、おそらく今回公表された施策は、取り消されるのではないか、と個人的には見ています。

そして、どうなるべきだったのか?私個人の見解で言えば、「購入するごとに、それを任意の賞品と交換出来る通貨に変換できる方式」です。これについても、Twitterで言及した通りです。

https://twitter.com/ohNussy/status/699577592853049344

例えばでもグラブルでもデレステでも何でもいいけど、ガチャって結果が気に食わなかったら「引換券を選ぶ」として、その引換券払ってガチャ対象キャラも確定購入出来れば、「最低でも5万を超える事はない」というラインを設けられるわけで、そこには消費者にとって担保された対価が用意出来る。 

※ここから、DeckDeDungeon2の詳細に興味がない方は、「アイテム課金の今後のあり方」の章までスキップして下さい。


DeckDeDungeon2ではどうなのか – 金貨方式

DeckDeDungeon2(以下、DDD2)では、「宝石と金貨」という2種類のゲーム内通貨制を用いています。宝石が課金アイテムで、またゲーム内で入手可能であり、それによって引いたカードパック(本記事ではガチャと呼称します)からカードが得られ、そのカードを売却すると金貨に変換でき、その金貨で任意のカードを作成可能です。

宝石は120円で120個、7,800円で11,800個が購入可能です。1回のガチャは宝石100個で購入でき、5枚のカードが得られます。カードの入手確率は、以下の通りです。

  • ★1: 60%(実数値58.4%)
  • ★2: 30%(実数値31.6%)
  • ★3: 9%
  • ★4: 1%(=100枚に1枚=20ガチャに1枚=2,000宝石の価値)

1ガチャ5枚につき確実に1枚は★2以上が封入されるため、★1・★2の出現確率は若干変動して、実数値のものになります。この確率を元に、「欲しい★4カードを手に入れるのに必要な課金価額」を推定します。

7,800円で11,800個が購入可能という事は即ち、66.1円で1ガチャ購入可能であると計算出来ます。★4は1%の確率なので、おおよそ1,322円の価値があると言えます。そして、「ベーシックパック」に含まれる★4カードは47種類なので、欲しい★4カードをガチャから入手するのに必要な金額(あくまで期待値を元にした推定金額で、絶対ではありません)は、およそ62,000円ほどです。

これだけ見ると非常に高額であるように見えますが、金貨への変換システムが、この金額について別のアプローチをもたらします。手に入れたカードは、売却する事によって以下の金貨に変換できます。

  • ★1: 金貨5枚 (覚醒なら金貨20枚)
  • ★2: 金貨20枚

     (覚醒なら金貨100枚)

  • ★3: 金貨100枚

     (覚醒なら金貨500枚)

  • ★4: 金貨500枚

     (覚醒なら金貨3,000枚)

そして、レアリティに応じた以下の金貨を支払う事で、任意のカードを1枚作成出来ます。(対象カードは、ガチャに含まれる全カードが対象になります)

  • ★1: 金貨20枚
  • ★2: 金貨100枚
  • ★3: 金貨500枚
  • ★4: 金貨3,000枚

これはつまりどういう事かと言うと、「任意の★4カードは、別の6枚の★4カードと引き換えに入手可能である」と言う事です。また、それよりも低いレアリティのカードをたくさん売却する事によっても、同様にそのカードが入手可能です。

細かい計算は省きますが、1ガチャにつき手に入る金貨の期待値は121.5枚です。(覚醒した場合を含む) ★4作成に必要な3,000枚を入手するのに必要なガチャ回数は24.7回であり、およそ1,633円となります。1,633円につき1枚、好きな★4カードが手に入る、という計算になります。

これについて、「相対的に62,000円の価額であるものを、総付景品とて,1,633円で提供しているのであれば、やはり1,633円の2割である1586円を上回った景品の総付としてアウトでは?」という認識は、まず「総付景品である」という認識から誤りです。

そもそも全てのガチャに含まれたカードが1,633円によって確実に入手出来る、という前提があり、また取引に付随した形で賞品が渡されるわけではなく、1回のガチャにつきランダムなカード≒相対的な金貨121.5枚という価値を提供している形であるため、「ユーザは1回の購入につき、何か良いものが手に入るかもしれない可能性もありつつ、欲しいものにも変換出来る一定の価値を購入出来る」という形になります。

9万円払っても出なかった場合に限り欲しいものが1枚手に入ると、支払ったら支払った分だけ欲しいものの購入に充てられる通貨が手に入る、では「上限金額がはっきりしている」という同じ目的に対するアプローチであっても、それらの賞品が持つ性質が全く異なるものになります。

「9万円払わずに手に入れられる可能性があるから出費したのに、結果やっぱり手に入らなかったから9万円に達した時点で景品をもらう」というのは、「9万円かけずに手に入れられるかもしれない」という誤った可能性を提示する欺瞞が潜在しており、景品表示法において総付景品に価額上限が設けられている理由のひとつであるとも言えます。


DeckDeDungeon2ではどうなのか – 覚醒石

DDD2では、1.1%の確率でカードに覚醒効果というものがつきます。これは、そのカードをデッキに組み込む事で、ダンジョン内で特定の効果を得られる、というものです。

この制度を加味した上で「欲しいカード+欲しい覚醒効果」という評価をした場合においては、確率から想定される推定必要金額は莫大な額になります。

この点においてDDD2は、欺瞞はないもののも、「あまりにも入手確度が現実離れしすぎている」という問題があり、v1.1.0にて覚醒付与機能を設けました。

これは、入手した覚醒カードを売却する事で、覚醒石というアイテムを手に入れ、それを使ってまた別のカードに覚醒効果を付与出来る、というものです。

一度覚醒石を手に入れてしまえば、必要な覚醒効果を得るまで覚醒カードを売却して覚醒石の再利用が可能です。ダンジョンから入手可能なカードからも覚醒効果は入手出来ますし、クラフトや名声交換でも入手可能です。(名声交換は1日に何度でも交換可能なため、名声に余裕があるなら覚醒石入手のための手段として利用可能です…が、確率を考えると効率はあまり良くないかもしれません) これはカードパックのカードにも言える事ですが、全てダンジョンドロップからも入手可能であるため、無課金でのゲームプレイだけでも全て入手が可能です。

覚醒石は、今後クエスト報酬・ダンジョンドロップ・遠征などによる直接提供も実現し、ゲームプレイからの入手頻度を増やしていけるよう検討しています。覚醒効果はあくまでゲーム攻略的要素の位置づけであるため、なるべくはゲームプレイ主軸で手に入る形を実現していきたいと考えています。本当はそもそも、ガチャから覚醒カードが出る形自体も撤廃したいのですが、現状でカード≒覚醒石入手手段の大部分がガチャであるため、撤廃出来ない状況でもあり、そのためにも他の手段による入手方法確立は必要であると考えます。そして、そうなった後は、ガチャからの覚醒石は完全に撤廃したいとも考えています。


DeckDeDungeon2ではどうなのか – 調整予定

少なくとも、以下の項目については、今回の件とは別の問題から調整を予定しています。

  • 1日のプレイから得られる宝石量の増加調整
  • カードクラフト金貨費用の増加調整

まず、宝石の量については、デイリークエストの拡充によって増やす事を検討しています。現状では、5ソウル(≒5時間分の体力回復)で得られる報酬は、およそ200~800宝石程度です。この総量は当然プレイヤーのプレイ進捗によって変動します。(この数値は、ノーマルクリアしたてのプレイヤー~チャレンジャー上位をコンスタントにプレイできるプレイヤー、での範囲です) 朝と夜にプレイすれば、1日にこの倍は手に入ります。この量を、相対的に増やす予定です。

カードクラフトについては、現状で「作りたいカードがレシピに並ぶまで作成出来ない」という問題の解消に付随する問題です。v1.2.0からは、カードクラフトは「ダンジョン内でピックしたカードが100%の確率でレシピに並ぶ、1日の作成量に制限を設ける」という形式に変更されます。これによって特定のカードを入手するために必要なレベルデザイン上の「必要時間」が著しく縮まるため、そのバランスを取る形で金貨費用が上がります。単純計算で、★4を作るために必要な課金額は、前述の1,633円→2,720円に上がる見込みです。ただ、これについてはデイリークエスト拡充が同様に金貨入手量増加になる事と、そもそもダンジョンでピックさえすれば作成可能になるという点で、結果的には欲しいカードをより入手しやすい状況になると言えます。


アイテム課金の今後のあり方

以前から公言していますが、私個人としても、自分の開発するゲームで採用している通り「アイテム課金そのもの」には否定的ではありません。ゲームを無料で遊ぶ事が出来、プレイヤーがその面白さのコアに触れてから、支払いたい分だけプレイヤーが決めて支払うことが出来るし全く支払わずにプレイだけで欲しいものを得る努力も選択できるという意味では、フルプライス前払いで体験版もないようなタイトルに比べたら、客観的にはとても良心的であると思います。(学生時代には私も10,000円くらいするフルプライスのクソゲーをたまに買ってしまっては後悔していました)

アイテム課金の問題点は、その手法であったり、表示であったりの、誤認を意図的に促す欺瞞に尽きると思います。極端な話、「全キャラコンプには100万円必要です!」と大声でちゃんと主張した上で、それでも全部買いたいんだというユーザがいるならそれはそれで別に良いとも思います。開発者がオープンで分かりやすく景品のメリットを伝えて、それを購入者が理解して納得でき、双方が「得をした」と思える取引になる事が、アイテム課金の本来のあるべき姿です。言ってしまえば購入者がエンターテイメントにお金を支払うという意味では、実物商品やサービスを販売したりする取引となんら変わりはなく、双方の合意と満足がゴールである事は明白です。重要なのは金額の多寡ではなく、その取引価額が商品の価値と見合う事を双方の評価が互いに一致している事です。そこを、人間心理につけ込んで欺こう、価額を高めてしまおうとする姿勢を開発者が持ち続ける限り、商品や商法・広告の形態は変われど、欺瞞問題は変わらず残り続けます。(コンプガチャから今に至るまで、まだまだ変われていないと言えます)

元々ゲーマーだけのものだったゲームは、ソーシャルゲームの登場で急速に市場拡大し、「儲かる」市場になりました。しかしまだ、「ゲーム」というデジタル世界の取引という感覚に、公的機関の対応が追いついていないのが実状のように思います。しかし、消費者庁の中の人がガチャについて言及する記事なども出てきており、本格的な問題解決への動きが始まる過渡期にあるようにも思います。

【山本一郎】ソシャゲのガチャで,本当にヤバい問題はどこなのか

欺瞞問題の解決が難しいのは、明らかな詐欺問題と違って、消費者や関係当局が問題を問題として認識しづらい事に起因すると思います。「当人はそれで納得したと言っている」と言われてしまうと、詐欺と断定は出来なくなるからです。しかし、人間心理を利用した欺瞞であると証明出来る第三者と制度が整えば、このような問題に客観的な基準が設けられて、問題は終息し、業界の健全さは取り戻されると思います。逆を返すと、そうした第三者の介入なしに、自浄は期待できないとも思っています。そう思ってしまわざるをえないくらいに、市場全体が欺瞞の渦に陥っています。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

「本当に面白いゲームが、しかるべき評価を受け、しかるべき対価を受ける」という当たり前のような状況が、早くゲームの世界に訪れる事を願っています。

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